本稿では、日本において高スキル業務と低スキル業務が増加し、中間的な業務が減少するという「業務の二極化」が生じているか、それに対してITの導入がどのような影響を与えているか分析した。1980年から2007年まで時系列的に所得階層間、学歴別間でみると賃金の二極化はあまり見られないものの、2000年以降の賃金・給与動向を見ると、給与別階層の最下層や中卒及び高卒労働者の賃金の伸び悩みや、低収入階層で男性労働者が女性労働者以上に増加している。1980年から2005年の職業の動向をみると、知識集約型職業(研究者、技術者)が増加しているが、同時に労働集約的でそれほど高スキルとはいえない職業(介護・家事支援サービス、清掃員等)が大きく増加し、国際競争や新技術の導入など経済の構造的な変化で需要の縮小した職業が大きく減少している。職業と収入のデータの取れる過去10年でみると、増加率の高い職業は必ずしも賃金水準が高くない。さらに、Autor, Levy and Murnane (2003)の理論的枠組みに基づき、国勢調査の職業小分類を各職業の特性によって「非定型分析」「非定型相互」「定型認識」「定型手仕事」「非定型手仕事」に分類し1980年以降の動向を見たところ、日本でも諸外国同様、知識集約型(非定型分析)業務の増大と同時に比較的低スキルの非定型手仕事業務の増大、定型業務の減少といった変化が見られることが示された。また、産業別の業務構成の変化と産業ごとのIT資本導入との関係を見たところ、IT導入の活発な産業で知識集約型(非定型分析)業務の増大、定型業務の減少が概ねみられることが示された。